観光客プレイ

大覚寺にお散歩がてら桜を見に行ってきた。

大覚寺は、健一くんの母校の高校の裏手にあって、お庭には大きな池がある。

高校時代の健一くんは、昼休みに学校を抜け出して、友達とこの池のほとりを「さんぽ」をしていたそうだ。

高校生の男子と、健全な「さんぽ」という言葉がまったく似合わないと思ったけれど、なぜか「ほんとにさんぽしていたんだ」と仕切りに主張していた。なんかあやしいけど。

拝観料を払って池の方に向かおうとすると、後ろから「大沢池エリアを2枚ください」と場違いに明るく楽しそうな声が聞こえてきた。振り返ると、若い大学生くらいのカップルが仲良さそうに笑いながらチケットを買っていた。初デートかな・・・男の子が張り切っている様子が微笑ましかった。

桜が満開だった。うすいピンク色があちこちにまぶしいほど溢れていた、きれいだった。

桜の花を間近で見ると、可愛らしくてそっと手で包み込みたくなる。

小学生のころ「さんすうセット」に入っていた裏に磁石のついたおはじきが、こんな形だったな。あのおはじきがかわいらしくて大好きで、毎日取り出しては机の上に並べていた。

満開の木には、信じられないくらいたくさんの数の花が群がるように咲いていた。

ゴージャスなのに、派手派手しさはなくて、品のある佇まい。

同時に、少しひんやりした冷たさと、うっすらと不気味さも感じる。この咲き方は尋常じゃない、狂気だと思った。

もう少し遠くまで行こうという健一くんの希望で、渡月橋まで歩いた。

耳を澄ますと、たくさんの言葉が聞こえてきた。中国語、韓国語、英語、フランス語、スペイン語、日本語・・・

そのくらいの言葉しかわたしには判別できないけれど、いろんな言語が聞こえる。

すれ違ういろんな国から来た人たちの顔や表情、服装を眺めていると、今自分がどこにいるのかわからなくなりそうだった。

どのくらいの国の人がここに来ているんだろう。

こんなにたくさんの外国の人たちがいる場所は、ほかに見たことがない。

おそらく、今渡月橋を渡っているほとんどの人が、人生で最初で最後の渡月橋なんだろうなと思うと

こんな遠くまで、よく来てくれたよねと、観光の人たちがちょっと近い存在に感じた。

それにしてもすごい人だった。

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