忘れ物プレイ

わたしにはかねてからの悩みがある。それは、「親孝行」だ。親に優しくしようとすると、こう、なんというかモヤモヤした胸が詰まるような感情が湧き上がってくる。そんなわたしに、Amazonが表示したのがこの本だった。

みうらじゅんさんの「親孝行プレイ」という本。

親孝行を「プレイする」、つまり、演じてみたらどうか、簡単に言うと(簡単に言い過ぎだけど)そんな本。

ありえないほど具体的な情報が盛り込まれていた。家族旅行の予定の立て方、部屋の取り方、旅行の時の夕食後の行動、実家に行った時にまずチェックすべきポイント、母親への声掛けのセリフ、仕事のことについて聞かれた時の答えの盛り方、家族団欒の時の座る位置、父親と一緒に行くお店のチョイスの基準などなど、具体的な説明とその根拠が、懇切丁寧にユーモアたっぷりに語られていた。読みながら笑っちゃうのだけど、そのひとつひとつが、緻密な親子の心理の分析の上で書かれていて、「親孝行したいけどできない」で悩んでる人へのガイドになっている。

上っ面のテクニックなんてものでは終わらない深いものだったのだ。

初見で、軽そう…なんて思ったこと、ほんとうにごめんなさい…

親孝行したいけど素直にできない、実は私もそんな悩みがある。

決して、仲が悪いわけではないけれど、よく話もするし、ちょくちょく実家にも顔を出す。

だけど、心配症でひたすら厳しかった両親に対して、既にふたりとも80を超えているのに、優しい気持ちになれない自分がいて、そんな時は、私は人として異常だろうかと思うことがある。

自分も親になり、事情も察することができる。「親も若かったんだし、完璧ではなかったんだ、一生懸命育てようとしてくれたんだ」と頭ではわかるのだけど、いざ親を前にすると、あの時わかってもらえなかった、してもらえなかった悲しみが込み上げてきて、ここまで出かかっていた思いやりの言葉を飲み込ませることがある、イライラが湧き上がる。

そんなことをしながら、いつかは親に優しくしなかったことを後悔するかもしれないと日々思う。

『そんな人も、ぜんぜん心が伴っていなくてもいいから「プレイ」から始めよ、まずは行動から』と言う言葉が、わたしの気持ちをすーっとラクにしてくれた。

自分を少し引いてみる。つまり、自分をじぶんとしてではなく、孝行ものの娘役に見立てて演じてみることなら「できる」かもしれない、いや実際、電話で話したり、一緒に旅行行ったり、結構やってるじゃないかと、読んでいてワクワクしてきた。

今この本に出会えてよかった。

プレイする、つまり自身を客観視して、あたかも演じるように行動する。これはかなり他にも応用できそうだと思った。

例えば婚活とかね。

お見合いで、どうしても楽しめないとか、そんな時、お見合いや交際をめちゃくちゃ楽しんでいるプレイをしている自分になったら、目の前に出てきた相手が多少気に食わなくても気にならないんじゃないか、楽しめるんじゃないか。

(まあ、限界はあるけど…)

さらに、自分だけでなく他人にも応用できそうだとも思った。

実は、うちの夫は、とにかく忘れ物が多い。

いつもいつも車に携帯を置いたまま家に帰って来て、「携帯取ってくる」と寝る前になって取りに行ったりしている。多分、いや間違いなく、50%以上の確率でだ。

買い物に行っても買い忘れが多い。

料理を作り始めてから、「あれ〜、キャベツが…!」とか「まだ、あると思ってたのにぃ」というなげきの声が聞こえてくる。

「⚪︎⚪︎買い忘れたから、ちょっと行ってくるわ」と出かけていく。

買い忘れを繰り返して、1日に3回ぐらい買い物に出かけて行くこともある。

反省もしないし改善もない。

行く前に冷蔵庫の中くらい見とけや。

忘れるならメモしとけや。

そんな健一くんを見ていて、なんなのこの人はと、以前はイラついていたのだけれど、あぁそうか…

そんな夫は「忘れ物プレイ」をしていたのか!と。そう考えると、プレイを頑張ってるんだなと、優しい目で見ることができる。

「忘れ物プレイ」をがんばっているんだねと言ったら、「違うわ!」という返事が返ってきた。

前へ
前へ

運動できな言い訳

次へ
次へ

おなじくらい下手がいい