時間がゆっくりになる場所
麗らかな1日だった。
お墓参りで丹波の方に行ったので、川沿いの緑に囲まれた bio sweets のお店「菓歩菓歩」へ。
わたしのとっておとぎの国のおかしやさんみたいな場所。
「お庭のブランコに乗ってお茶を飲みたいな…」
そんな気持ちで向かう車の中から、うきうき。
私は”わくわく”、健一くんは花粉で鼻が”むずむず”してたみたいだけど。
着いたのは夕方だったからか、店内はがらんとしていて、
角のテーブルでひとりスイーツをつついていた男性が妙にいい雰囲気だった。
前に予約したときに、パフェの説明を丁寧にしてくれた女性スタッフさんが
はじけるような笑顔で「お庭、どうぞ」と声をかけてくれる。
コーヒーとチャイとシュークリームをひとつずつ頼んで、
誰もいないお庭を、ぶらぶら歩いて、ブランコに乗って、川を眺めて、写真を撮って。
「ちょっと寒いねえ」「桜が咲いたら綺麗だろうねえ」
そんなやりとりを交わしながら、自分ちの庭で過ごすような穏やかな夕方だった。
スタッフさんが、お茶とケーキをにこにこしながら運んできてくれる。
その姿がなんとも愛らしくて、見ているだけで心がゆるむ。
写真に撮ったら、シュークリームがまるでお供えもののように見えた。
カリッとした皮と、ねっとり濃厚なカスタードクリーム。
ふたりとも、気づけばほんの数十秒で、シュークリームは胃の中に落ちた。
一瞬で消えたのに、ちゃんと記憶に残る味だった。
わたしの体感で、時間のスピードが落ちる場所がある。
菓歩菓歩がそうだし、ほかにもいくつか。
そういう場所があると、逃げ場じゃないけれど、
そこに行くだけで、なんだか元に戻れる。
そんなふうに感じられる場所が、生活の中にいくつかあるといい。
宇宙では、重力の強い星のそばでは、時間の流れがゆっくりになるらしい。
ブラックホールの近くでは、地球よりもずっとずっとゆっくり。
わたしにとっての“時間がゆっくりになる場所”って、
きっとそういうものなんだと思う。
重力じゃないけど、安心とか、好きなものとか、なにか不思議な引力で
時間の流れが、すこしだけゆるまる場所がある。